『母乳育児の文化と真実』

『母乳育児の文化と真実』

ナオミ・ボームスラグ(著)
ダイア・L.ミッチェルズ(著)
監訳:橋本武夫(小児科医) 
(メディカ出版)

「伝説の乳母」とは? 働く女性の授乳は?
世界各地の母乳育児の珍しい話や貴重な話
なぜ母乳育児が減りミルク育児が急激に広まったのか
利益を守る企業と健康を守る公衆衛生の攻防があった

推薦者:すずきともこ

母乳育児が社会の中でどう扱われてきたか、その紆余曲折がわかります。
興味深い話がたくさん!!

「日本でも西洋でも、乳母は高給であり大切にされた」「81歳で母乳が出る伝説の乳母がいた」「子どもを産んだことのない女性でも赤ちゃんにおっぱいを吸わせると母乳が出るようになった」「初乳が捨てられていた風習があった(もったいない!)」「母乳を目や耳の感染症の治療に使った」など。

また、母乳育児を続けながら働きたい女性が、「仕事中にタバコを吸う人の休憩時間と比べたら、搾乳や授乳で取る休憩時間のほうが短い」と説明して職場で授乳時間を確保したり、授乳中の女性が二人一組で交互に授乳しながら助け合って仕事したり。

なお、母乳を飲ませると医療費が減り、社会にとっても母子の健康にとっても有益で、雇用主にとっても経費削減になるそうです。

700万年前から母乳育児をしてきた人類ですが、母親が他界したり、もらい乳ができなかったり、捨て子が増えた時期があったり、母乳をあげられないときのために人工乳が約180年前に開発されました。

コンデンスミルク(牛乳を煮詰めて大量の砂糖を入れたもの。常温で保存できる)が特許を取って販売され、ビッグビジネスになりました。(コンデンスミルクを長期間飲んだ赤ちゃんは、くる病や壊血病になったそうです。)粉ミルクも発明されて、企業は利潤追求のために熱心に営業しました。白衣を着たミルクナース(営業員)を病院へ派遣して粉ミルクを勧めたり、無料でサンプルを配布したりして、母乳育児が激減しました。

アフリカやアジアでは、水道がないため泥水で粉ミルクをとかして赤ちゃんが感染症で死亡する悲劇が起きました。

多数の赤ちゃんが命を落としても、粉ミルクの販売促進活動が強力に行われていることを見かねて、WHOが「母乳代用品のマーケティングに関する国際基準(WHOコード)」(母乳代用品のマーケティングに関する国際規準 | 母乳育児支援ネットワーク(bonyuikuji.net))を制定して赤ちゃんの命と母乳育児を守ろうとします。

制定されるまでの攻防戦についても書かれていて、国家をも左右する企業の権力に驚きます。そのWHOコードは残念なことに、今もなかなか守られていません。世界各地で。日本でも。
 
もちろん、適切に使用すれば、粉ミルクがあって助かる人たちがいます。私自身も粉ミルク育ちであり、助けられました。

その一方で、「母乳で育てたい」気持ちを持つ人が、母乳で育てられる世の中になるといいなと思います。母乳育児の情報がゆきわたり、必要なサポートが得られれば、ほとんどの女性(90%以上!)が母乳で育てることができるそうです。

母乳育児支援がどんなに必要で大切か、骨身に染みる本です。

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