『きみは赤ちゃん』

『きみは赤ちゃん』

川上未映子(著)
(文春文庫)

“妊娠、出産、育児”に足を踏み入れた女性の誰もが感じる違和感。気づきをもらえる優しいエッセイ

推薦者:西川直子

この本はおっぱい育児に役立つ本、にはあてはまらないかもしれません。

なぜなら、筆者の川上未映子さんが「結果的に母乳メインで育てることになったのは、ありがたいことにおっぱいにトラブルもなく母乳が最初からとめどもなくでたこと」と書かれているとおり、母乳にまつわる体験談や情報がびっちり詳しく書かれている、というわけではないからです。

しかし私がこの本をお勧めしたいと思った理由は、「妊娠、出産、育児」の世界に一歩足を踏み入れた瞬間から女性が感じる、様々な想いや風景がとても素直に表現されていて、「私の想いを言葉にしてくれた」「そうそう、そういうことだったんだよね」と、ホッと力が抜けたり、何か元気が出る方が多くいらっしゃる気がするからです。

-後悔とか、後ろめたさとか、そういうのじゃないけれど、でもたしかに、それは点のよ
うな空白として、わたしのなかに残っている(「出生前検査を受ける」より)

-赤ちゃんを生んで育児が始まっても、仕事や家事を生むまえとおなじかそれ以上できな
ければならないのだとつよく思いこんでいた。(「3ヵ月目を号泣でむかえる」より)

-わたしだって、あべちゃんとおなじように、する。「ごめんね」も「すみません」も、
金輪際、口にしないし、ぜったいに思わない。(「父とはなにか、男とはなにか」より)

-小さなオニを胸に抱いて、小さく息をしながら眠るオニの顔をみながら、こんな幸せが
あったのだと、ほんとうにしあわせだと、心の底から、思ったこと。(「夢のようにしあ
わせな朝、それから、夜」より)

などなど、川上未映子さんの描く情景をとおして、明日につづく道をいっぽ前に進む元気
がわく言葉の数々に出逢えるでしょう。
 

他と自分を比べて辛くなったり焦ったりすることも多い、妊娠・出産・育児の毎日の中
で、思わず「そうなの!」と膝を叩きたくなるような(さすが芥川賞受賞作家です!)こちらの素敵な本。是非読んでみてください。

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