『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』

『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』

磯崎園子(著) (ほるぷ出版)

絵本を初めて、あるいはもっと自由に楽しむための「羅針盤」
―絵本ナビ編集長による絵本探しのガイドブック―

推薦者:ちかぞう

♪ ピンポーン ♪

あれはこの夏ようやっと成人した娘を、ほぼワンオペで見ていた約18年前。6畳3間の借家のチャイムが鳴って、玄関を開けると、クロネコヤマトのお兄さんが立っていた。

「お届けものでーす」

四角くて、手にずっしりと重い荷物の中には『いないいないばあ』をてっぺんに、松谷みよ子さんの絵本が8冊。包装紙を開けるとざーっと雪崩のように、色とりどりパッと華やいだ空気をまとって、絨毯の上に滑り降りてきた。

学生時代の悪友Fの、お母さんからの贈り物だった。

「え、うちの子、まだ生まれたばっかりなんだけど。絵本なんて、わかるのかなぁ」

と独り言ち、とはいえいただいちゃったものだし、せっかくだからベビーベッドの傍らで読んでみた。

すると子どもとわたしの暮らしに、絵が、言葉が、まるで堰を切ったように流れ込んできた。

いま思えばあの時、娘には絵本が、わたしには「羅針盤」が届けられたのだ。途方もなく広くて大きい、子育ての海へ漕ぎ出してゆく時、そこには「絵本があるよ」と、Fのお母さんは教えてくれたのだ。

土砂降りで傘すらさせないような朝も、黒い海が高波で荒れ狂う夜も、そして空の青さに手を広げ深呼吸する昼も、いつだって、いまだって、手の届くところに、心を照らしてくれる絵と、寄り添ってくれる言葉たちがある。そこに絵本のある人生を、我が家の子どもたちにもたらしてくれたFのお母さんには(それ以外の、ここには書けないような恥にまみれたご恩もたっぷりあるけど!)足を向けては寝られない。

でもたぶん、そんな奇特な「友人のお母さん」なんて、そうはいない(笑)。

それからわたしも、子どもと絵本を読む時間、一緒に笑ったり泣いたり、その素敵なひとときを友人たちに贈りたくて、出産のお祝いに絵本を見繕ってみたりした。でもどんなに頭と財布を絞ってみたところで、子どもと親の、その瞬間にジャストミートな本を、8冊もどかんと紹介(しかもプレゼント!)することなんてできない。

Fのお母さんのようなレアキャラが身近にいたわたしは、恐ろしくツイていたのだ。

でも「絵本っていいよね、いいよね」としゃべって回っていると、新たな出会いがやってくるもので。

(さて、ここからが本題です!)

ある日、仕事でお世話になっているTさんからレターパックが送られてきた。「ちかぞうさんなら絶対好きだから!」という押しつけがましさ1.5歩手前くらいのメッセージと、ビビットでカラフルな『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』が、ボール紙の封筒にギュっと収まっていた。

正直なところ、育児書的な本は大の苦手(だって反省するところばっかりで苦しくなっちゃうから)。とはいえいただいちゃったものだし、せっかくだから本棚の傍らで読んでみた。

「あぁ、これも『羅針盤』だ!」

どのページをめくっても、子育てと絵本の「海図」が拡がっている。まさに小学校や中学校で配られた『地図帳』と同じで、目に止まるところがあれば目を止め、知りたいことがあれば索引をたどり、ただパラパラと絵本の世界を旅したければ、好きなように行ったり来たり。どこまでも自由で、でもアドバイスが欲しい時には「こんな1冊はいかが」とそっと差し出してくれる、そんな「友人のお母さん」のような本だったのだ。

チョッピリだけ真面目にご紹介すると『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』は、月刊『こどもの本』(日本児童図書出版協会)の連載「絵本と年齢をあれこれ考える」に、書き下ろしなどを加えたものらしく。

1.   0・1・2歳

2.   3・4歳

3.   5・6歳以上

4.   大人と絵本

5.   絵本とあれこれ

の、めちゃくちゃ分かりやすい全5章構成。

しかも2000万人が利用している絵本・児童書情報サイト「絵本ナビ」の編集長が、社内の現役子育てママからウェブサイトに寄せられた声まで網羅して、プロ中のプロの観点から、またひとりのママとしての視点から、全力投球で、具体的に、絵本を薦めてくれる本だった。

Tさん、なんてブラボーな本を♪ とウキウキしながら「コレは、推せる。推したい!」と思って、いまキーボードを叩いてます。

ところでアラフィフとなったわたしも、そろそろ友人たちの孫の誕生を祝う年齢になりつつある。友人に、あるいは友人の子どもたちに何か贈るとしたら『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』は、筆頭候補になるだろうな。

そして、もしかして。娘の友人が子どもに恵まれたとしたら。

わたしはきっと再びこの本を紐解いて、Fのお母さんのように絵本を贈るのだ。さすがに8冊は無理だけど!

で、末筆ながら18の我が子はどう育ったかというと。平仮名の「らしんばん」が大好きな、厚い本も薄い本もこよなく愛する大人になりましたとさ そういや、Fもそうだわ……。『いないいないばあ』の可愛らしいくまさんは、豊かな表現の森深く、沼へいざなう森のくまさんだったのか。はじめての絵本、恐るべし。やっぱり絵本選びって、と~っても大事なんだな。。。

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